くらしをつくる人NOTE

Vol.18
2024.11.1
Vol.18 造形作家 水田典寿さん

空気をつくる

こちらはミラーのフレームになる予定になるもの。

元々は大きくて、四角くて、金ピカだった額縁。
そのままでは水田さんのお眼鏡にかなわなかったそうです。

バラした状態で2年間、雨ざらしにしたことで金が剥がれたり、カビが生えたり、中の漆喰がでてきたりして水田さん好みの表情に。その素材を利用して再度組み直すことでこのフレームができあがったのです。

「こうなるとは予想できないから、もし違ったら塗装をすればいいかなと思っていました」とおっしゃる水田さん。水田さんは素材との向かい方がとてもニュートラルだなと思います。
依存しすぎていないなあと。

水田さんのアトリエを見回すと錆びた鉄、拾ってきた流木、朽ちかけたスーパーボールといった一見すると役に立たなそうなものが沢山転がっています。

それらも水田さんの手にかかると命が吹き込まれるからとても不思議です。
そんな水田さんに古いものを作品の材料として使う理由を伺ってみました。

金子「独立当初から “素材は出逢い” みたいな感じだったのですか?」

水田さん「そうですね。素材がそういう性質のものなので展覧会までに何ができるか自分たちでもわからないんですよ。だから出来上がった作品を持参してはその場で空間を作るという手法を当時からとっているんです。合わないなと思えばどんなに気に入っていてもその作品は出品しないということもよくありますね」

金子「確かに、そうですね!そこに躊躇は感じません」

水田さん 「そういうやり方だったのでこういう作品を創ってと言われてもできなかったですね。
リストもギリギリにならないと作れないし、ディスプレイ用に持って行ったものは値段もついていないみたいなこともよくあったんですよ(笑)」

金子「それはギャラリー泣かせですね(笑)。お二人でそういう決めごとをしていたのですか?例えば新品の素材は使わないとか」

水田さん 「決めごとがあったわけではないんですけど。好みじゃなかったんだと思いますね。
僕も相方も作りたいのはその場の空気感なんですよ。だから、その空気に合わない素材は使わないみたいな感じです」

水田さん 「新しいものでもそれが空間に合えば使うんだと思いますけど、しっくりくるものがあまりないんですよね」

金子「それは時間が経過したものの方が作りたい世界観にあうということだったのでしょうか」

水田さん 「単に好きだったということだと思います。古いものが持つテクスチャーだったりとか、雰囲気みたいなものが好きだったんです」

流木との出逢い

水田さんの代表作と言えば流木を用いて制作した木彫。

アトリエにある流木をよく見ると何かの動物になるのかなと想像させられるものや彫りかけのものが無造作においてあります。

福生から海へ向かって2時間車を走らせ、流木を拾ったり、それ以外の漂着物を収集したりしてそれらを作品の材料としている水田さん。

お客様によく聞かれるのはこの質問。

「水田さんは何故流木を用いて作品を制作されているのでしょうか?」。
自分も気になるので伺ってみました。

金子「流木を作品に使うようになったきっかけは何だったのでしょうか」

水田さん 「訓練校を出た時に出逢った彫刻家の方の影響がやはり大きいですね。一時その方のお仕事のお手伝いをしていたんですよ。流木を使って神様を創ろうという子供向けのワークショップを彫刻家の方が開催して、自分も参加させていただいたんです」

金子「そうだったのですね!どんな作品だったのかとても気になります」

水田さん 「胃弱様(いじゃくさま)という神様を作りました。胃が痛そうな弱々しい表情の神様です(笑)。今もあるので御覧になりますか?」

金子「是非、拝見したいです!」

水田さん 「こちらなんです」

あまりの弱気な表情にその場にいた全員、笑みがこぼれます。

水田さんが見せてくださったのは、お腹をおさえながら青白い顔をして立っている流木でできた神「胃弱様」。

非売品(大切な思い出の作品なので)と伺って、余計に欲しくなる人が取材班から続出しました。

金子「こちらが水田さんの処女作ですか(笑)。なんとも弱気な表情に癒されます。
最初に作った作品が神様で今回の展覧会のテーマも「四神」という神様だなんて。
共通点を感じてなんだか嬉しいです」

水田さん 「同じ神様でも全然違いますよね(笑)」

2/6
世界観があるよね