くらしをつくる人NOTE

Vol.18
2024.11.1
Vol.18 造形作家 水田典寿さん

世界観があるよね

流木を使った作品を創り始めた水田さん。

作家への道に進むきっかけとなった彫刻家さんのことが頭の片隅に浮かんでしまって「その人とは違う作品を創りたい。オリジナリティとは何か」と常に自問自答しながらものづくりに向きあっていたそうです。

金子「水田さんの作品を初めて拝見した時は言葉を失うほど衝撃的でした。
漂う死生観や影を感じて、それにぐっと引き込まれる様な感覚があったんです。
この鳥は死んでいるのかな?みたいな。でもそれを聞いていいのかなとか。
自分の中でどんどん妄想が膨らむんですよ。水田さんって、きっと50歳くらい(※5年前の話です)のやせ型の神経質そうな白髪の男性、みたいな感じで。でもお会いしてみたら、あれ?同い年くらいかもって。お話をしてみるととても優しい方でした」

水田さん 「(笑)」

金子「今の作風はどのくらいで確立されたのですか?」

水田さん 「独立して10年位たってからですかね」

金子「自分が進むべき道が見えるまでに10年かかったということですか?」

水田さん 「自分が見えたというよりは、“水田さんの作品は独特の世界観があるよね”って、10年くらい経ってから言って頂けるようになったんです。その間は情報を遮断していましたね。憧れの人の展覧会には行かず、相方の作品も見ないようにしていました」

金子「その期間、ずっとご自身と向き合っていたんですね」

水田さん 「自分では “独特” って何かわからないし、それが何と理解しながらやっている訳でもないので。一生懸命自分がいいと思うものや好きなものの制作を重ねてきた結果、今のかたちになったという感じなんです」

温度が2度下がる

金子「自分が想う、水田さんの作品の特徴といえばやっぱり死生観ですかね。ちょっとこの感じは今まで触れたことが無いなと。展示空間がぴりっとしているというのともちょっと違って」

水田さん 「それは当初から思っていたし、考えていたことなんです。
自分が作った空間に入ると2度くらい温度が下がったような感覚をもっていただけるようにしつらえたいなと考えていました」

金子「温度ということなのですね」

水田さん 「そう、温度ですね」

金子「自分が感じたのは気持ちの静けさ。日常のざわつきから離れられるというか。
すっと気持ちが変化したことに気が付きました」

水田さん 「ちょっと冷静になるみたいなことなのかもしれないですね。
金子さんに初めて作品を見て頂いた頃にはある程度自分の感覚が掴めていたんですよね。自分が好きなものが明確になってきていた。例えば、博物館のように静かで、温度が少し低く感じられるような空間のようなイメージです」

悲しいは美しい

金子「昨年の雨跡/AMART(雨晴が手がけるアートプロジェクト)のトークセッションの時に、死生観について水田さんに伺ったと思いますがあらためて教えてください。
水田さんは作品一つ一つに対して、生死を意識していないとおっしゃっていますが実際に拝見するとそれがわからないなと思う作品が見受けられます。
その理由のひとつとして流木を拾いに行った時に、陸と海の境界線で沢山の生き物の死骸を見ているからかもしれないと教えて頂きました。その時の記憶が作品に無意識のうちに投影されているのかもしれないと」

水田さん 「あの後、自分も考えたんですけど、多分古いものが好きという感覚と地続きなんだと思うんですよね。新品のものが生きているとしたら、古いものは死んでいるわけではないんですけど、どこか欠けたり傷がついたりしていることが多いので。家具の制作を自分が手掛けてもそういう感じですし。それが生き物のかたちをしているのであれば、、、というイメージなのかなと今は思います」

金子「創りたいのは生まれたての元気な子ではないみたいな」

水田さん 「そんなだったりするのかなあって。要は命が朽ちていくということじゃないですか。それが生き物であれば死んでいるということになるのかなと。あとは “悲しいことは美しいこと” という感覚が自分の中ではあるんですよ」

金子「なるほど」

水田さん 「ちょっと悲しいものって、ちょっと美しいと感じるんです。
そういう感覚を自分が持っているなということを自覚しつつオリジナリティとは何かを考えて流木と向き合う中でああいった作品が生まれてきているのかなと」

金子「水田さんが想う、悲しさの中にある美しさが作品に自然と宿り、それを見る人も感じてくださっているということなのですね」

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澄んだ瞳