くらしをつくる人NOTE

Vol.15
2022.9.29
Vol.15 陶芸家 岡晋吾さん、さつきさん <唐津編>

自分を疑わないこと

金子「僕が思う晋吾さんの作品に魅かれる理由はモチーフが古典的な染付だったり、
織部だったり、黄瀬戸だったりとど真ん中な和の表現をしているにも関わらず、
晋吾さんの手にかかるとそれがモダンに感じられて、実際に使いたいなって思えることなんです。
晋吾さんのようなアプローチで制作している方って多くはないですよね?
そのバランスの秘密はどこにあるんですか?」

晋吾さん「あー」

金子「それは企業秘密?(笑)」

晋吾さん「いやいや。それはね、自分の中に引き寄せるってこと。
技術の差ではなくて意識の差なんだよ。疑わないってこと」

金子「誰をですか?」

晋吾さん「自分を」

金子「はー。自分を」

晋吾さん「そう、これでいいんだって思い込むってこと。
どんな世界でもそうだと思うんだけど、意識の差って大きいよね。
これで間違いないってことは無いのかもしれないけど、これが自分なんだからいいんだって思うこと。
その先でちょっと変えようかなって思うことはいいけど、疑いの先に変化を求めるのはちょっと違うかなって思うんだよね。あとは自分を下手だと思わないこと。
絵を描く時にちょっと変になっても、直さない。下手だとしてもそれを通せって感じ」

金子「あー、これ失敗しちゃったから没。みたいなのは無いんですか?」

晋吾さん「全部アドリブだからね。最後に見て、あれ?何か足りないなって思う場合は絵具をぽとっと垂らすみたいなことはありますけどね。できたもの全てが今の自分だからね」

食卓にささやかな華を

金子「さつきさんの作品はどのように生み出されているのでしょうか?」

さつきさん「私の作品がどう生まれているかといえば、まずはものと向き合って自分が今何をしたいかを考えます。その後にどういうシチュエーションで使って頂きたいかを思いながら作っていきますね」

金子「誰かが作品を使うということは意識しますか?」

さつきさん「意識します。私の中でのターゲットは “お母さん” なんです」

金子「さつきさんの?」

さつきさん「いえいえ、日本全国のお母さん」

金子「へえ、そうなんですか!晋吾さんとは全然違いますね」

さつきさん「あの人は自分が作りたいものを作っているけど。
私はおばあちゃんがいて、お母さんがいて、お子さんがいて、という賑やかな家族像が頭の中にあって、みんなで台所に立って料理を作っているっていう場面をイメージしています。
このお皿が可愛いからケーキを装おうよ、みたいに思ってもらえるのが理想かな。
だから、かっこいいのとか作れないのよ」

金子「かっこいいですけどね。復帰当初はさつきさんらしい、可愛い作品が確かに多かったと思いますけど、展覧会を重ねる毎に洗練されて、かっこいい作品が並ぶようになった気がします」

さつきさん「パーティーの時に子供が喜ぶような、うつわがいいなって思っていて。
コンポートとかも飲食店用ではなくて、家庭料理が器のお陰でより美味しそうに、そして華やかになって。子供たちの気持ちが上がるようなものを作れたらいいなって思いますね」

金子「女性のお客様のファンが多いですものね」

さつきさん「自宅では唐津焼とか渋いものも使っているけど、また孫とかできて賑やかになったらそういう華やかなうつわを使いたいなって思いますよね。
私のしおりに “食卓にささやかな華を添えたい” って書いてあるんですけど
コロナ禍になって今だったら “賑やかな食卓を” に変えたいなって思っています。
賑やかな食卓で自分のうつわを使って貰えたら嬉しいなって」

金子「日々の暮らしでどのようにご自身の作品を使っていますか?」

さつきさん「料理にあう器を自分で選んで毎日使っていますよ。
うちの作品はよく高いっていわれるんですけど」

金子「日用品としてはということ?」

さつきさん「そう。美術品みたいって言われるけど、高くても使わないともったないし、
他のとは違うからこそ価値があるから特別感をもって使って欲しいなあって。
うちのお父ちゃんのうつわを出すと、綺麗に料理を装いたくなるじゃない。
そういう風に日常的に使って貰いたいなって思いますね」

夫であり、師でもあり

金子「隣に晋吾さんがいるというのは?」

さつきさん「やっぱり、敵わないかな。勉強の仕方も違うし、天才だからね」

晋吾さん「なに?(笑)」

さつきさん「私の先生でもあるからね。勝とうとも思っていないし。
色々なことを教えてもらっている。
“自分で恥をかけ” って言葉も好きだし、 “駄目なものは無い” っていう言葉も好きだし」

晋吾さん「失敗は無いってこと。捉え方だけだから」

さつきさん「出してみて、いいか悪いかはお客様が決めること、だよね?」

晋吾さん「簡単なことやん。ダメなら売れないだけなんだから」
さつきさん「恥をかけっていうのは、今の自分の実力をそのままさらけ出すということ。
上手に描けなかったと感じているものを人に見せるのは作家としてどうなのだろうと思っていたんだけど。
“恥をかけ。それは自分が作ったものだろう” って言われてね。とっても刺さりました」

晋吾さん「自分から出てきたものを世に出さないって、自分を否定することになるじゃない」

さつきさん「先生からそうやって教わっているんですよ。陶芸家としては先生だけど、夫としては0点やろ(笑)」

一同「(笑)」

さつきさん「いや、マイナスかな(笑)」

晋吾さん「そもそも、俺に会った時から陶芸家人生が始まっているからな(笑)」

金子「だからと言って、隣にいる人誰もができるわけではないじゃないですか。ねえ、先生」

晋吾さん「そうだよね」

金子「だから教えがいがあるんですよね?」

晋吾さん「俺は教えていないよ。言葉の端々では伝えていることはあるけどね。
自分の意識の違いでものごとの捉え方が変わるから。
“選択してはいけない。自分を否定してはいけない。それをさらけださないと”ってね」

さつきさん「でも、それって難しいよね」

晋吾さん「それを通らないと次にいけないんだよ。自分もダメだってわかっていて出すこともあるよ」

金子「それでダメだった場合(売れなかった場合)は、それはもうやらないんですか?」

晋吾さん「もうやらないってことはなくて」

さつきさん「それをどう伸ばすかとか」

晋吾さん「どう変えていくかということを考えるよね。何が足りなかったんだろうというのを確認するんだよ」

金子「なるほど。常に前に進むために行動しているのですね」

晋吾さん「そうそう、出てきたものの感性は間違いないんだけど、処置の仕方が悪かっただけかもしれない。それをダメにするのではなくていい方向にチェンジしていくんだよ」

金子「超ポジティブ!」

さつきさん「怖いものなしでしょう」

金子「だから、進化し続けられるのですね。無駄なものは何もないんですね」

晋吾さん「そう何もない」

金子「人生の教訓ですね!」

晋吾さん「そう思った方がみんな人生愉しいと思うんだけどな」

金子「間違いないです!みんなそう思えたら鬱病とか無くなりそうです」

さつきさん「本当に」

金子「最後に展覧会について教えてください。今回はどのような内容になりそうですか?」

晋吾さん「わからないよね。あまり計画的にやらないから」

金子「うんうん」

晋吾さん「俺は名脇役だから、主役に負けない脇役を作るだけなので(笑)」

さつきさん「よく言うよ!(笑)。私は何かなあ。
でもね、私の中で雨晴さんで展覧会をやるのは特別感があるんですよ」

金子「それは嬉しいお言葉。ありがとうございます!」

晋吾さん「力入るものね」

さつきさん「雨晴さんの空間に合う作品を作りたいなって思っているし。
だからと言って今、何をっていうのはまだないけど、
私の中での雨晴さんをイメージしながら作っていると思いますよ」

金子「晋吾さんの展覧会は5年ぶりくらいですよね」

晋吾さん「あの時は完次君に来てもらった時だよね。本当に酔っぱらっていたな俺(笑)」

※以前、雨晴のイベントでお世話になった東中野にある懐石の名店「岸由」の大将、坪島完次さんは坪島土平さんの甥御さんです

金子「そうそう(笑)」

さつきさん「本当に。ほどほどにしてほしい(笑)」

金子「(笑)では、最後にお互いに一言お願いします」

さつきさん「元気で長生きしてね(笑)」

一同「(笑)」

金子「では、晋吾さんから」

晋吾さん「はい。何も言うことないけどね」

金子「またまた照れちゃって(笑)。本日はお忙しい中、ありがとうございました!」

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晋吾さんの手