くらしをつくる人NOTE

Vol.15
2022.9.29
Vol.15 陶芸家 岡晋吾さん、さつきさん <唐津編>

俺と私は二人組

雨晴では初めて開催する岡夫妻の二人展。

往年の天平窯ファンでもある金子はわくわくが止まりません。

さつきさんから「 “二人展” というのはちょっと恥ずかしいから “二人組展” の方がいいんじゃないかと思っている」と相談を受けまして、ご夫婦なのに “二人組” ってちょっと面白いからそれで行きましょう!とある種のノリで展覧会のタイトルが決まりました。

せっかくなので二人で展覧会する意味について伺ってみたところ
お二人がお互いを信頼しながら自身の制作に向き合っているのだなあと感じるお話を沢山伺うことができました。
これはきっと、あまり他では聞けないお話だと思いますので是非読んで頂けると嬉しいです。

金子「9月の “二人組展” よろしくお願いします!
唐津に移ってからしばらくは、晋吾さんだけが制作されていたと思いますが、
さつきさんは復帰するまではお手伝いもしていなかったのですか?」

さつきさん「子供が中学生になった頃から、こっちに通うようになって。
絵を描いたりして、少しずつ手伝ってはいたんですよ」

金子「そうだったのですか」

晋吾さん「それでリハビリしてね(笑)。あとはたまに先生の仕事もしていたよね。 “さつき描けって” 先生に言われて(笑)」

金子「さつきさんが復帰したのはいつなんでしたっけ?」

さつきさん「子供が大学に行って、子育てが終了して、することが無くなって」

晋吾さん「最初は大阪で夫婦展やったりしてね。東京は俺が伊勢丹に電話して、売り込みしたんだよ」

金子「へえ」

晋吾さん「夫婦でやりたいからお願いします!って伝えて。
その頃のさつきはお客さんともロクに話ができなくて、いつも後ろに控えていたんだよね」

さつきさん「デビュー当時の私は可愛かったんですよ(笑)。人と積極的に話すのが苦手だったんです」

晋吾さん「東京での遊び方も知らないから、仕事が終わったらコンビニ飯買ってホテルで食べていたよね。今じゃ、すぐに呑みにいっちゃうけど(笑)」

さつきさん「あはは(笑)」

晋吾さん「今じゃ、あんたがいると遊びにくいなんて言っているよ(笑)」

金子「(笑)」

晋吾さん「リハビリ超えてもう独立しちゃっている(笑)」

さつきさん「東京に子供たちがいるからね。時間があれば会っているのよ」

金子「それはよい時間ですね!二人展は久しぶりですか?」

さつきさん「今年の春に伊勢丹でやったよね」

晋吾さん「そうだったね。二人展の方が数を作らなくていいから、楽なんだよ(笑)」

さつきさん「それ言っちゃいかんでしょ(笑)。
その分、一点一点の作品に集中できるから楽しいよね」

晋吾さん「二人で制作した方が横に広がりを作ることができるよね。
さつきがやることはだいたいわかるから、それと違うことをやろうと考えているよ」

金子「晋吾さんはどんどん新しいことをやって行く、みたいなこと前に聞いた気がします」

晋吾さん「セットアップした時に横に広がっていた方が見る方も楽しいでしょ。
売れる売れないは別にして、同じものばかりあるよりもいいよね」

さつきさん「そうよね」

金子「お互いのラインナップは事前に相談するんですか?」

晋吾さん「相談はしないけど。察する(笑)」

さつきさん「私は絵付けが多いから、こっち(晋吾さん)はシンプルにみたいな」

晋吾さん「うちの稼ぎ頭はさつきだから、俺は名脇役に徹する感じで」

金子「そうすることがお互いの作品を引き立てあうことに繋がるのですね!」

晋吾さん「そういう意味で、掘り下げた作品を僕も作れるよね」

金子「さつきさんと一緒に展覧会を開催することで
より渋くて、深みのある、追求型の作品を作ることができるということですね」

晋吾さん「そうだね。絵はさつきに預けてね。総合的にバランスが取れたらいいかなって」

金子「さつきさんにとって二人で展覧会をやるという意味は?」

さつきさん「あはは(笑)私は一緒にやると安心感があるかな。
自分が出せないものも展覧会に並ぶし、
近い将来、自分もこういう風に作りたいなって思うものが見えてくるから
私は二人展の方がやりやすいかなあ」

晋吾さん「隣で作っていてお互い手の内はわかっているから、セットアップしやすいよね。
お互いが引き立つようにしやすいとは思うね」

金子「それは夫婦ならではかもしれないですね」

さつきさん「引き立てているかはわからないけど、二人の作品を並べるとお互いのカラーがはっきり出るからお客さんは楽しいだろうなって。
若い方から、ご年配の方まで楽しんでいただけるだろうなあって。
プロ(料理人)のお客様にも見て頂きやすいと思うし」

金子「雨晴での展覧会も初めましての方から、往年の天平窯ファンの方もきっとお見えになりますね。
今からお客様の反応がとても楽しみです!」

今がまま

天平窯には壁一面に「トンボ」と呼ばれるうつわのサイズを図るための道具が並んでいます。
天平窯を卒業するとみんな轆轤が上手くなるって言われているそうです。

職人としての基礎体力をもつ晋吾さんが窯主だからこそ
お弟子さんたちも独立してすぐに活躍できる技術を持って卒業していくのでしょう。

晋吾さんが掲げているご自身の作品づくりのコンセプトは「今がまま」。

料理とうつわの関係性は志の島先生から学び、
うつわの作り方は自身で開拓してきた晋吾さん。

昨今、開催される展覧会にはその集大成のような作品が一堂に介しています。

長年の経験の中で研ぎ澄まされた技術や感性は勿論ですが
今作りたいというご自身の気持ちを素直に表現しているからこそ私たちが晋吾さんの作品に心を動かされるのではないでしょうか。

金子「晋吾さんに初めてお会いした時は
白瓷と染付がメインで少し安南手があるみたいな作風だったと思うんですよね」

さつきさん「そうそう」

金子「それから、赤絵、色絵、銀彩、唐津といった流れで一通り制作されて、
今はその集大成みたいな感じだと思うのですが。
どういうきっかけで新しい作品が生み出されてきたのですか」

晋吾さん「飽きちゃったから(笑)」

さつきさん「あはは(笑)」

金子「(笑)最初から白瓷が作りたかったんですか?」

晋吾「最初は美濃焼から始まったんだよ。黄瀬戸、織部、志野という具合に。
土平さんとか魯山人の影響を強く受けているからね」

金子「土ものからスタートしているのですね」

晋吾さん「そうそう。その後は雑誌で白瓷作家岡晋吾って言われて、その3年後には染付作家岡晋吾って言われて。その時々で作風が違うからさあ。俺って欲張りだよね(笑)」

金子「その後は安南、色絵、みたいな流れですね。そして今は唐津に?」

晋吾さん「土ものをやろうと思うとやっぱりね。唐津にいるから唐津かなあって。
美濃もいつも意識をしていて、唐津の土に織部とかそういうのも作っていこうかなって。
そのためには唐津焼を勉強した方がいいかなって思っているよ。これからは土ものが増えていくと思うよ」

金子「それは楽しみですね!また飽きたら別のことをやるんですね!」

晋吾さん「だから、いつも自分のテーマは “今がまま” なんです。
今もこれからも “今がまま” 」

金子「流行りを意識するわけではなくて、いま岡さんが作りたいものを作っているということなんですね」

晋吾さん「無理はしないで自分の流れの中でつくっているね」

金子「薪の窯とガス窯はどう使い分けているのですか?」

晋吾さん「薪の窯は作品的なものづくりに使いたいなって思っているね。
食器とは分けている。
花器、茶器、酒器が多いよね。やっぱり薪で焼くと味わいが違うから。
その人が個人で長く使いたいものはやっぱり薪の窯がいいかなって思っている」

金子「年に何回焼いているんですか?」

晋吾さん「二回だね。春と秋の展覧会に向けて。春はおかりやさんなんだけどそこでは白瓷と染付しか出さないんだよ。ある意味ニュートラルに戻れるから」

金子「やっぱり戻るところは、白瓷と染付なのですね」

晋吾さん「それまでに足し算してきた感覚を一度リセットできるからね。
年末までは赤絵を描くことが多いんだよ。赤絵は足し算が多い仕事でしょう。
赤絵を描いた後に白瓷や染付を作るともの足りないって思うこともあるけれど、引き算していいねっていう感覚を一度取り戻さないといけないからね。
本当は白瓷だけでもいいんですけど、梅雨はちょっと肌寒い日もあるから染付もあった方がいいかなって思って。季節を意識するというのも大切だと思っていますよ」

金子「季節も意識しているのですね。土ものはどうなのでしょうか」

晋吾さん「色絵はある程度ごまかせるけど、素地と焼きだけってなるとまた違うところが見えてくるから難しいよね」

金子「それは岡さんでもそうなのですか」

晋吾さん「そうだね。黄瀬戸や伊羅保は濃いよりも釉薬を薄くかけた方が良くなるんだよ。窯元に絵付けを指導する時に4本線を描くよりも3本にした方が高く売れるよって言うんだけど、みんなに “線が減るのに何で高くなるの? “ ってよく聞かれる。
引き算することでよくなるものがあるってことなんだよ。それは釉薬ものも同じだね」

3/5
自分を疑わないこと