人間も自然の一部

晋吾さんは僕にとって焼き物の師匠。
師匠と言ってもつくる師匠ではなく選ぶ師匠です。

うつわの選び方や組み合わせ方を20代の時に晋吾さんに教えて頂いたことが
今も自分の糧になっています。

哲学的な思想を持つ晋吾さんのお話はいつも学びがあって楽しいのですが
今回のインタビューで一番印象的だったのは「人間も自然の一部なんだよ」というお言葉。

陶芸においてそれはどういう意味なのでしょうか。

金子「岡さんも唐津に来てから、唐津焼を作るようになったんですよね？」

晋吾さん「俺が唐津焼を作る場合は “おからつ” って呼んでいるけどね（笑）。
唐津焼の師匠がいるわけではないからね」

金子「違うものを作りながらも、同じ地域の中で若い方達と交流があるというのはいいですね」

晋吾さん 「自分はみんなと違って唐津焼に真摯に向き合っているわけではないから。
勉強は勿論しているけどね。
唐津焼の古典を見てそれを作ろうというつもりはないからね。
みんなの視点と自分の視点とでは違いがあるんだよね。
だから、彼らが作る作品を見るととても勉強になるんだよ。
逆に僕がつくる唐津をみると
“えー、こんなの作るんだ”ってなるかもしれないじゃない。それが面白いのかなって。
こないだ斑唐津のお向こうを作った時に、ある唐津焼の作家さんが
“こんな唐津見たことないな！これは岡さんしか作れないなあ”
って言っていたんだけど（笑）」

さつきさん「私は唐津もそういう風にもっと自由に作ればいいのになあって思う時があるんですよね」

晋吾さん「唐津も教科書がありすぎるからね。
みんな昔ながらのものを模倣しながら、いつの日か自然と変わっていくというのを待っているんだよね」

さつきさん「それは私が有田で絵付けをしていた時と似ているかもしれないですね。
このかたちしかないって思っていた」

晋吾さん 「自然という言葉の中に人間も自然の一部であるということが入っていないんだよね。
人間以外の動物も思考を持っていて、それを出して生きているじゃない。
人間の思考も自然の一部なんだから同じであっていいはずなのに、それを意識的に出すことを嫌うんだよね。
意思を持ってやるといけないんじゃないかという気持ちがあるから。
自然の流れの中で焼きが変わったとか、ちょっとした作業中に無意識に捻ったことで作品が良くなったとか。そういった無意識の中に生まれた変化を待っているよね。
僕の場合は逆で意識的に変化するように思考しているんだよね。
そこが唐津の人達とは違うところかもしれないね」

金子「なるほど」

晋吾さん「そういう思考があるのも人であり、人は自然の一部ということなんだよ。
だから出てきたものを “これは古典の唐津とは違う” と評価されてしまうと
新しいものは生まれてこないよね。
いつまでも古い教科書を手本にすることになってしまう。
昔の作品を手本にすることはできるけど、自分の部屋を作ろうとしないのが不思議だなあって」

さつきさん「それは自分もずーっと悩んでいたことかもしれない」

晋吾さん「それが必要なことと思ってはいると思うけど、自然と変わっていくのを待っているんだよね」

さつきさん「初期伊万里とかって、完璧だからね。これを作れたら最高よねっていうのがあるもんね」

晋吾さん「でも、それを追いかけていたらいいものは出来ないからね。
一番大事なのはその時代の匂いであって、そのものではないからね」

家賃収入

晋吾さんは庭で二ホンミツバチを飼ったり、畑を耕したりと作陶で忙しい時でも
自然と関わる時間を大切にしています。

古い焼き物の絵付けの中にも身近な自然や出来事を題材にしたものが多くみられますが晋吾さんもさつきさんも作品の中にそれを取り入れているようです。

金子「ところで、蜂さんは元気ですか？」

晋吾さん「今や二階建てのおうちになりましたよ」

金子「みかん味のするとっても美味しい蜂蜜ですよね」

晋吾さん「そうそう（笑）。近所のみかん畑で蜜を集めているからね。
こないだなんて、空が真っ黒になってさあ。
二ホンミツバチの大群が巣に引っ越してきたんよ。
こっちはニコニコだよね。家賃収入が入るって（笑）」

さつきさん「天敵はスズメバチなんですよ。あれが来るとまた引っ越しちゃうんです」

金子「スズメバチ！それは知りませんでした。
自然環境が近くにあることはものづくりに影響していますか？」

晋吾さん「記憶の中に鳥がとまった時の姿があるから、そういうのを描いたりするよね。
俺、蜂も描けるよ（笑）」

金子「身近なものを題材にした作品は過去にも制作されていましたよね。
自転車描いたり、洗濯物を描いたり、岡さんを描いたり（笑）」

晋吾さん「そうそう（笑）」

金子「最近、おふざけシリーズ無いですよね（笑）」

さつきさん「最近、余裕が無いもんね（笑）」

晋吾さん「最近は飼い犬の絵くらいかな。描いているのは」