くらしをつくる人NOTE

Vol.14
2022.5.6
Vol.14 陶芸家 田中信彦さん <PUNK!!!編>

田中さんの手

「自己表現100%の人間ではない」と言い切る田中さんの職人的なスタンスをこの手が物語っています。

田中さんの強みは職人の修行を経て得た産地のノウハウ。
それがあるからこそ、自分が新しく発想したことやクリエイティブな方々の要望を実現できているのだそうです。

金子「新しい作品が生まれるきっかけがあれば教えてください」

田中さん「外的要因と内的要因の両方がありますね。

例えばレストランのシェフからこういうイメージのものが欲しいと相談があって、
“自分は普段はやっていないけどやってみます”みたいな感じでつくることで新作が生まれることもあります。
レストランのシェフって明確じゃないですか、こういううつわが欲しいって。
それを聞いて作るということが自分の中の新しい扉を開いたり、既存の仕事を壊すみたいなことにもつながっているんです。

元々、ひとつのことをずーっとやるのが得意ではなくて、とっちらかっている状態で仕事をするのが好きなので」

金子「そうなんですね!」

田中さん「逆に内面的な要因から生まれる作品もありますね。
金子さんがよく“B面”って表現してくださる作品も“自分自身の作風を破壊していきたい”というPUNKな気持ちが内面から湧き上がることがきっかけで生まれるんです。
田中信彦の表現の100%が色のうつわとなるのが面白くなくて、それとは真逆なこともやっていたいという気持ちが常にあるんですよ」

金子「田中さんが今までものづくりをしてきた経験があるからこそ
シェフたちのそういった声に応えられたり、ご自身が想像したことを実現できているってことなんですね!」

田中さん「まさにそうだと思いますね。
先程の話にもあったとおり、産地や現場の経験の重要性ってまさにそれだと思うんですよ。引き出しが増えるということなんだと思います。
産地に集積している技術とかノウハウって、インターネットに載らない情報がたくさんあるんですよ。そこで学んだことは自分の厚みにもつながっていると思います。
その経験があるからこそ視野を広げたい時に新しい窓を見つけやすいのかなって思うんです。
だからこそ、新しい相談を受けた時に“やってみましょう!”と一定以上のレベルでお仕事を引き受けることができているのかなって思いますね」

工芸ではなくクラフト

金子「田中さんが目指しているのは“工芸というよりはクラフト寄り”と以前、伺ったことがありました。でも田中さんは確かな技術をお持ちなのでむしろ工芸なのでは?と思うのですが」

田中さん「僕の中では伝統工芸的というと、うつわを重ねた時に綺麗に同じ幅に揃う技術を持っているとかそういう世界なのだと思っているんです。
もちろんそういう技術も持っていますけど、表現としてはもっと軽やかな“クラフト”と呼ばれるような作品でありたいと思っています」

金子「軽やかさは誰に対して必要なものなのでしょうか?」

田中さん「それは自分がそういうものを使いたいからですね。
僕は日常的に使うものであれば技巧的なものよりも軽やかなものの方が好きなんですよね」

金子「クラフトと工芸の違いってわかりにくいですよね」

田中さん「クラフトって実は定義が曖昧なんですけど“手作り” “中量生産”という捉え方がありまして。あとは値段がこなれているという条件もあったり。
自分の中のクラフトとはそういうものなんです。
一時は日本クラフトデザイン協会に所属していた時期もあったくらいで、
自分の中でクラフトとは生活の中に取り入れても無理がないものっていうことなのかなって解釈しています」

金子「なるほど」

田中さん「僕は使う気になっていただけるものを作りたいんですよ。
だから価格に関しても高すぎると使えないからある程度、抑えているんです。
自分の中で高いものを買ったりすることもあるんですけど、そういうものは日常的に使おうという気持ちになかなかなれなくて。
少なくとも自分の作品は、自分が日常的に使いたいと思えるようなものでありたいんです。だから価格も高くはできないなって。買えないって思う方が増えるのも嫌だし」

最大公約数に届くもの

田中さん「今回のテーマのPUNKな精神とは反対に聞こえてしまうかもしれないですけど。
自分が作るものは常に最大公約数を意識しているんですよ。

でもね、最大公約数を意識したものってつまんないんです(笑)
誰でも買えて、だれでも使えるものって、毒にも薬にもならないし。

じゃあなんで最大公約数に届けたいと考えるかというと
“できるだけたくさんの方の感性と響きあうものを作りたい” というのが一番の理由なんです。

自分には才能があるとは思っていないけど、ちょっと秀でている部分があるとしたら最大公約数的なできるだけたくさんの方の感性と響きあえるエリアを狙えるところなのかなって思っています。

100%狙ってはいないけど意識はしているんです。
だからこれだけの期間、陶芸で食べていくことができているんだと思っています」

3/4
POP or PUNK?