くらしをつくる人NOTE
2021.2.24
久保さんは都会っ子
久保さんといえば富山の人。
しばらくの間、僕は勝手にそう思っていました。
池文鎮や石文鎮と僕が思い描く富山ののどかな風景とが重なって、自然が身近な環境にいらっしゃるからこそこの作品が生み出されているのだろうなあと思っていたのです。
でもよくよく聞くと久保さん実は超都会っ子。
東京生まれの東京育ちなんですよね。
都会っ子の久保さんがどうしてご自身の作品の中に日本の原風景ともいえる
水辺の情景を描くことができたのか。
ずっと気になっていたのですがついにその秘密を知ることができました。
金子「久保さんと言えば、石文鎮が代表作だと思います。誕生のきっかけを知りたいです!」
久保さん「私は小さい頃からずっと生き物が好きで。特に水辺に住む淡水の生き物が大好きだったんです。
実家で沢山の生き物を水槽の中で飼っていて。ゲンゴロウとか水カマキリとかメダカも飼っていました。
自分が今、作品に彫っているものは当時飼っていたものがほとんどです」
金子「久保さんの記憶の中に生き物やその動きがあるのですね」
久保さん「そうそう。ただの趣味が高じてこうなったみたいな感じなんです(笑)
生き物を飼っていなかった時期ってほとんどなくて、富山で一人暮らししていた時も金魚さんを飼っていたんですけど夏場に灼熱で亡くなってしまったんです。
これはいけないと思って、自分のために初めて作ったのが文鎮だったんです。
お世話しなくていい金魚鉢みたいなイメージで制作したのがきっかけでした」
金子「初耳です」
久保さん「それはもっと原始的で本当にガラスの塊の後ろから金魚を彫っただけのものでした。
それを上からのぞくと可愛いなというのは一つ発見だったんですけど」
石の記憶
石文鎮誕生のきっかけはもう一つありました。
久保さんの勤めていた、なないろKANのある富山県朝日町の海岸では翡翠がとれるそうです。
“半透明なもの”好きの久保さんはそれをよく探しに行っていたそうなのですが
久保さんはある時、海岸に落ちている石がまん丸になっていることに気が付きます。
日本海の荒波に揉まれることで削れて丸くなった愛らしい石に魅了された久保さんは お休みの度に拾いに行き、その石からあるインスピレーションを受けます。
久保さん「その丸い石を見ていたら元々はごつごつしたものなのに、川の上から転がりながら海岸に届くまでの間に色々な生き物に出逢あっただろうなって思ったんです。
形も可愛かったし、この石の記憶の中にある出逢った生き物たちの姿を彫ってみたいなって思ったんです。
それと、自分の為に制作したガラスの金魚鉢とが合体して出来上がったのが石文鎮なんです」
金子「その想像力がすごいです。海が来るまでに石が出逢った生き物の記憶をガラスで表現しようなんて」
久保さん「これが初期の作品なんですが、タガメが好きだったんでいっぱい作ったんですけど
全然売れなかったんです」
金子「今のよりだいぶリアルな感じですね」
久保さん「そうですね(笑)この頃は水面がまだ完成されていないんです」
金子「ある時から水面の表現がすごくリアルになりましたよね。久保さんが嬉しそうに教えてくれました。
水面がすごくよくなったんです!って」
久保さん「水面が上手になってくるとお魚がより生き生きするようになってきて。
光が入るとさらに影の揺らぎが出て綺麗なんです」
金子「水面に浮かぶ花弁とかも更にリアルになってきていますし、その進化が素晴らしいなあと。
それにしても石ころのストーリーは15年くらい久保さんの作品を拝見しているのに初めて伺って感動しました。石文鎮と池文鎮という二つの名前があるのが不思議だったんですよね。どっちも池を覗きこんだような景色を描いているのに。何で全部“池文鎮”ではないのだろうと思っていましたが聞けずにいました(笑)」
久保さん「石がなんせ好きだったので、かたちはこの石のかたちと決めてその中に物語を自分で作って描くようになりました。春夏秋冬って、季節によって水辺の景色も生き物ものも変わるのでそれを彫ることで作品を作り続けることができるんじゃないかって考えたんです」
金子「最初に冬を見た時に地味だなって思ったんですよね(笑)。でもじっくり見ると冷たい水の中にいる生き物の気持ちがじわじわと伝わってくる感覚があってとても好きです」
久保さん「金子さんたちが当時、こういうのを作って欲しいと色々とおっしゃってくださったのも大きかったです」
金子「勝手に水面に桜の花びらを浮かべられませんかとか。今思えばだいぶずうずうしいですよね(笑)」
久保さん「いえいえ、ああいう風に言って頂いたことが制作のヒントになっているんですよ」
金子「石の他に作品のモチーフになっているものはあるのでしょうか」
久保さん「泡ごしにみる景色の表現も面白くて好きです」
金子「水玉(すいぎょく)ですね。昨年の展覧会でもとても反響がありました」
久保さん「そうですか。それはとても嬉しいです!私は水に見えるものをガラスで作っているんです。
そして動物が好きなので生き物を描くという仕事が本当に好きです」