くらしをつくる人NOTE

Vol.13
2021.2.24
日の出ガラス工芸社 津坂陽介さん、久保裕子さん<後編>

ガラスで食べていくということ

一見華やかなガラス工芸のお仕事。
現実はそれを生業にしていくことはとても大変なことなのだと久保さんが教えてくださいました。

金子「学校を卒業された後に、津坂さんは海外に行かれたということですが久保さんはどうされたのですか?」

久保さん「私は、そのまま学校に残って3年間助手をしていました」

金子「助手をされていたのですね」

久保さん「日中は自分が学校で勉強したことを生徒さんに教えていました。
放課後になると校内のガラス作りに必要な設備を使うことができたので自分の作品を制作していたんです。
ガラスって本当に難しくて、4年やったくらいじゃとてもじゃないけど食べていけないので。
特に吹きガラスは学校にいるだけじゃ上手くならなくて、それこそ職人さんのところで毎日巻き続けるとかしないと上手にならないんです」

金子「そうなのですか」

久保さん「そういうのもあって助手を務めることでお給料を頂きながら、自分の作品をこつこつと作っていました。助手の最後の年に初めて個展を開催して、それからは今と同じように作家として活動をしていました」

金子「日の出ガラス工芸社さんは創業されてどのくらい経つのでしょうか?」

津坂さん、久保さん「2010年に立ち上げました」

金子「その前はどのようなかたちで活動されていたのですか?」

久保さん「助手を終えた後は、富山県の朝日町にある "なないろKAN硝子工房" に就職しました。
町の為に制作しながら、自分の作品も作るという日々を過ごしていたんです。
当時、津坂は山口県にいたのですが、枠に空きが出たので津坂を呼び寄せて同じ工房で働くことになりました。ヘッドハンティングです(笑)
そうでもしないといつまでも一緒にいれなかったので」

津坂さん「僕は卒業後、海外にも行きましたが、富山の先輩や山口にある先輩の工房でも働いてたのです」

久保さん「その時にガラスの窯を手作りする技術を仕入れて、富山に帰って来たんです。
私達は、なないろKANに在籍していた2005年に結婚して」

津坂さん「久保はその後レンタル工房を使って作家活動をして、僕は卒業した学校で助手をしていました。
助手をしながら作家活動をして、ちょうど助手の契約が終わった2010年にこの工房を立てました」

久保さん「富山市は途中までは個人工房を立てることを推奨していたのですが
やっぱりお金がかかるし、長続きしないということを見越して市が大きい工房を立ててくれました。そこには作家が入れ代わり立ち代わり制作できるという環境があるんです」

金子「以前にも久保さんからガラス工房の運営は大変だと伺っていました。
それでも2010年に日の出ガラス工芸社を作ろうと決意されたのは?」

久保さん「私は決意していません 笑」

金子「えっ、そうなんですか?」

久保さん「工房を作るなんて怖くて、レンタル工房のままで私はよかったんです。
でも津坂がやりたいっていうから」

金子「あはは(笑)」

久保さん「絶対やりたいっていうので」

金子「津坂さんの想いが強くて、日の出ガラス工芸社が生まれたわけですね」

久保さん「そうですそうです。それで覚悟を決めてやりましょう!ってなりました」

それぞれが個人作家

津坂さん、久保さんのお二人はそれぞれが個人作家。
同じ工房にいながら、適度な距離感をもって作品を制作されています。
そこには夫婦円満の秘訣も隠されているようですよ。

金子「僕がおつきあいしている作家さんはご夫婦でものづくりされている方が多いのですが
共同で制作する方もいれば、それぞれの作品を作る方もいらっしゃいます。
津坂さん、久保さんはそれぞれが個人作家としてご活躍される一方、展覧会では共同で作品を制作されることもありますよね。
個々に制作される時と一緒に制作される時の違いが何かあれば教えていただけますでしょうか」

久保さん「学生の時は一緒に吹いていたんです。津坂の助手を私がしたりして。
でも、津坂がやることはとても難しいので近すぎると段々と喧嘩になってきちゃうんです。
だから今は、優秀なアシスタントさん達が津坂にはついています。
私達が一緒に仕事をしたままだったら、年に数回どちらか家出していると思います(笑)」

金子「そんなにですか(笑)。微妙なバランスがあるんですね。お互いの作品を見たりはしているのでしょうか?」

久保さん「津坂が制作している作品は基本的には見てはいるんですけど、展覧会前で最後にバタバタと作ったものとかは見てないままお店にお送りしているということもありますね」

津坂さん「作品を作って、意見が聞きたいときや、見せびらかしたい時はよく相談しにいきますね」

金子「(笑)」

こちらは2月に雨晴で開催する展覧会「春をさがそう」でお披露目する「双魚レース文様杯」。
水の流れを津坂さんがレースで表現し、そこを活き活きと泳ぐ魚を久保さんが描いているお二人の共同作品です。

津坂さん「共同作品は、彼女に発注するようなつもりで制作をお願いしています。
ここに魚を彫って欲しいなみたいな感じで。」

金子「花器とかお皿とか毎回どんな共同作品が出てくるのか楽しみです。
津坂さんがデザインをされているということですか?」

津坂さん「僕発信のものはそうですね。逆に久保からこういうものを作ったらどう?と相談されることもあります」

金子「水に見立てたレースの中を魚が泳いでいるみたいな独特の世界観が愉しいです。
お二人の特徴が相乗効果を生んでいてとても素敵だなと感じています」

久保さん「レースがこんなに上手なのでそれを生かして他の方がやらないような
デザインを私がのせられたらいいなと思っています。たまにそれをやると楽しいよね」

津坂さん「うん」

金子「展覧会毎に共同の作品を制作されているのですよね」

久保さん「だいだい、2、3点は制作するようにしています」

金子「今回もどのような作品を見ることができるのかとても楽しみです」

2/4
久保さんは都会っ子