くらしをつくる人NOTE

Vol.13
2021.2.24
日の出ガラス工芸社 津坂陽介さん、久保裕子さん<後編>

環境が呼ぶ自然

アトリエの壁に目を向けるとその年の出来事が可愛い絵と共に書かれていることに気が付きました。

久保さんの石文鎮のように、日の出ガラス工芸社の周りで起こっている季節のうつろいや
日常の中の彩りが記録されているようです。

金子「この壁、素敵ですね」

久保さん「毎年、その時々に起きたちょっとしたことを書いているんです。
去年と比べると同じことやっているなあと振り返ることができたり、
今年はまた新しいことが起きているなあと発見できたりするんです」

金子「身近に起きることが久保さんの作品づくりに影響していることはありますか?」

久保さん「その年に出逢った新しいものとか見え方の新しい発見をした時ですね。
富山は寒いから氷の張り方もその年によって違うんです。水が跳ねたかたちが氷になったのが面白かったりするんですよ。展示会はそういった日常の中での発見を発表する場になっていると思います」

金子「ご自身が感動したことをお客様にもお伝えしたいということですか?」

久保さん「そうです、そうです。見つけたものをお客様に共有したい。“こんな面白かったことがあったんですよ”とお知らせしたいんです」

金子「久保さん、超都会っ子じゃないですか、元々は。
その都会的な環境と久保さんが表現する池の中の自然が当初結びつかなかったのですが
久保さんのお話を伺ってすごく良く理解できました」

久保さん「東京で見ていたのは私が作り出した小さな箱の中の水の世界。
その中にいる子たちがどうしたら生きやすいかなと私が考えていたのですが
富山では呼んでも来ないけど、環境が良ければ来てくれる。
こちらからは何も望まないというか来てくれた時に“ありがとうね”って思うんです。

今年から来てくれる声が綺麗な鳥さんたちがいるのですが、その子たちも庭にイチジクができるようになってそれを食べに来てくれているのかなって思うんです。
お庭の環境が良くなることで来てくれる鳥たちも増えて、みんなの中でここは安全だよって思ってもらえているのかなって」

金子「うんうん」

久保さん「話はガラスとは離れてしまいましたけど、
作品もあんまり作り込まないところに良さがあるというか、自然体が一番だなと。
その方が見ることが愉しくて、持ち帰ってもリラックスして頂けるのではないかなと。
私が見たものをあまり私が手を加えずに表現できたらいいなって思っています」

金子「きっと、それがお客様に伝わっているのだと思います」

久保さん「特に今年は(このインタビューは2020年の11月に行っています)お出かけできなかった方が多かったので、愉しんで頂けた方が多かったのかなと思いました。
“お家で川に行った気持ちになりました”とかそういうお声も頂いたんです。
作ってよかったなあと思いました」

金子「雨晴での展覧会では津坂さんの福鳥と久保さんの文鎮、そして品品の小林健二さんの景色盆栽をあわせるというのが恒例行事のようになってきました。
みなさんの作品が集まると自然の情景が目に浮かぶというか自然感が出ているのがすごくいいですよね。
次の展覧会でまたご一緒できるのが本当に楽しみです。今年はちょっと大変でしたが、また来年もよろしくお願いいたします」

久保さんの道具

久保さんが長い年月を経て集めた石。
棚の上に飾ってあったり、引き出しの中に綺麗にしまってあったり。

小さい頃から好きだった“半透明なもの”を今も大切にしていると伺った時に
久保さんはきっと少女の頃の気持ちの時のまま、ガラスや生き物と今も接しているのだろうなあと想像しました。

久保さんが豊かな感受性を持ち続けていらっしゃるからこそ
私たちの心の奥底にじんわりと温かく響く作品を届けてくださっているのでしょう。

久保さんの手

久保さんが日々のくらしの中で感じたことをそのままの形で私達に伝えてくれる久保さんの手。

作品の中に住んでいる生き物たちを眺めていると何かと落ち着かない人間の世界とは関係なく
自然界ではいつものとおり季節が巡っているということにふと気づかされます。

そろそろ、みなさんも身近にある春をさがしませんか。

小林健二(品品)× 津坂陽介 + 久保裕子(日の出ガラス工芸社) × 雨晴

「春をさがそう」

こんな時だからこそ春をさがそう
こんな時だからこそ春を育てよう
こんな時だからこそ春を愉しもう

小林健二さんの景色盆栽と津坂陽介さん、久保裕子さんのガラス作品と共に
おだやかな気持ちで過ごす春の時間をご提案いたします。

会期:2月26日(金)-3月8日(月)
※会期中も白金台雨晴は木、金、土、日のみ営業です。

◇作家在廊について

この状況を受けまして作家の皆様の在廊は控えさせて頂きます。

◇オンライン販売について

2月26日(金)より品品の景色盆栽の一部はOnline shop 雨晴食堂
にてお求め頂くことができます。

日の出ガラス工芸社の作品は会期中、もしくは会期終了後にオンラインショップに掲載いたします。

◇久保裕子さんの池文鎮、石文鎮、水の箸置きにつきまして

大変人気がある作品となりますので文鎮はお一人様、2点まで、
水の箸置きはお一人様5点までとさせて頂きます旨ご了承くださいませ。

日の出ガラス工芸社

津坂 陽介

1977年
愛知県岡崎市生まれ
1988年
富山ガラス造形研究所 造形科 卒業
2000年
富山ガラス造形研究所 研究科 修了
チフーリスタジオ アシスタント(シアトル/USA)
2007年
富山ガラス造形研究所 助手
2010年
個人工房「日の出ガラス工芸社」設立。
溶解炉を築炉(富山)
富山ガラス造形研究所 非常勤講師
2011年
磐田新造形創造館 ワークショップ講師(静岡)
名古屋芸術大学 美術学部 非常勤講師
2008年〜
全国のギャラリーにて展覧会、教育機関にてデモンストレーション。

久保 裕子

1996年
武蔵野美術大学 基礎デザイン科 卒業
1998年
富山ガラス造形研究所 造形科 卒業
1999年
ピルチャックGlass Schoolに参加(シアトル/USA)
2000年
富山ガラス造形研究所 研究科
富山ガラス造形研究所 助手
2003年
なないろKAN硝子工房 スタッフ(富山)
2008年
アーティスト・イン・レジデンス(倉敷芸術科学大学)
2010年
個人工房「日の出ガラス工芸社」設立(富山)

Photo / Yuka Yanazume

Interview / Kenichi Kaneko (AMAHARE)

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