くらしをつくる人NOTE
2021.2.24
前編の津坂陽介さんに続き、後編では久保裕子さんをご紹介いたします。
お二人のアトリエ「日の出ガラス工芸社」からは晴れていれば
富山が誇る名峰立山連峰を目の前に臨むことができます。
私達が到着した時はどんよりとした曇り空。ある意味北陸らしいお天気でした。
年間の日照時間が全国平均より少ない富山県。
特に冬場は曇りの日が多く、旅の者が青い空を見るのはなかなか難儀なことなのです。
今日は立山連峰を拝むことはできないかな、なんて話をしていたのですが、、、
久保さんにインタビューをしている途中
「いま、外の夕焼けが綺麗ですよ!」
と津坂さんが声をかけてくださって皆で一斉に外に飛び出しました。
目の前に現れたのは夕日に染まる立山連峰。
久保さん「すごい、山がピンク!こんなに綺麗に見えることはあんまりないです」
津坂さん「あっちもすごいよ!」
後ろを振り返ると、美しい里山の夕景が広がっています。(前編一枚目の山の景色です!)
久保さん「一瞬でしたね、あのピンク。今日は本当にいい日です」
金子「本当に。見れてよかったです」
このアトリエに来るとお二人が上手に自然とおつきあいされていることがよくわかります。
それは雨晴が憧れるライフスタイルの一つのかたち。
ピンクに染まった立山連峰を眺めながらこの自然豊かな環境に身を置くことが
久保さんのものづくりにどのように影響しているのかますます知りたくなりました。
久保裕子さん
春は水面に桜が浮かび
夏は池の中で活き活きと魚たちが泳ぐ。
秋になると紅葉が舞い落ち
冬になると氷が張り、生き物たちは池の隅でじっと春が来るのを待っている。
久保さんの代表作、池文鎮や石文鎮を覗き込むと水辺の生き物の様子が目の前に広がってきます。
初めてその作品を拝見した時、その池の中に吸い込まれていくような感覚を覚えました。
この唯一無二の世界観は年齢も人種も関係なく本当に沢山の方の心を捉えてやみません。
久保さんがどのようにしてこの透明感のある美しい情景を描いてらっしゃるのか。
あらためてお伺いしていきます。
金子「早速ですが、久保さんがガラス作家になったきっかけを教えてください」
久保さん「はい。私は元々美術が好きで、武蔵野美術大学で基礎デザイン学を専攻していました。
その学部はバウハウスの影響が強くて、ものすごく固いデザインを学ぶ日々。
例えば、色彩学を学んで、心理に合わせてピクトグラムを作ったりしたのですが
多くの皆さんが使い易いものを作るということを学ぶ場だったので、自分の個性を出し難かったんです。
4年間勉強する間に段々とその環境が窮屈になってきて、
机上でデザインするよりも自分の手で一個ずつ作品を作りたいと思うようになってしまって」
金子「うん、うん」
久保さん「元々ガラスが好きだったんですけど、大学4年生の時に川崎にある東京ガラスという学校の冬季講習に行ったんです。
そこでガラス作りを体験してみたら、あ、自分はこれをやりかったんだと思ってしまって」
金子「なんと」
久保さん「就職先も決まっていたんですけど、富山のガラスの学校を受験したんです」
金子「すごい決断力ですね」
久保さん「受かるかどうかもわからなかったけど、どうしても自分で作りたいんだという話をさせてもらって。
その頃はインターネットも無かったので図書館に行ってガラスを勉強できるところが無いかなって探していたところ、富山ガラス造形研究所を見つけたんです。
資料にもちゃんとアートスクールとして造形の勉強ができると書いてあったので(笑)
私は一応職人さんになるつもりではなくて、吹きガラスで一個ずつ何かを作るという人になりたいなと思って入学しました」
半透明なものが好き
半透明のものが好きだったという久保さんがアトリエで見せてくれた石のコレクション。
その一つ一つの思い出を丁寧に語ってくださいました。
大学の講義に違和感を覚えていた久保さんが東京のガラス学校に通うことになったのは運命の導きとしか思えません。
ガラス制作に目覚めた久保さんはまさに水を得た魚。
大学卒業後に入学した富山ガラス造形研究所では楽しくて仕方がないという充実した日々を過ごされたようです。
久保さん「本当に一週間、朝から晩までガラスという名がつく授業を受けていたんです。
それはもう、夢みたいな環境でした。
蛇口捻ったら硝子が出てくるんじゃないか?っていうくらいガラス漬けの毎日でした(笑)」
金子「(笑)それは素晴らしい環境ですね」
久保さん「こんな幸せでいいのかなって思いました」
金子「へえー」
久保さん「私、こういうことやりたかったんだよなって思いました」
金子「楽しくて仕方がなかったんじゃないですか?」
久保さん「本当に楽しくて(笑)」
金子「元々ガラスが好きだったとおっしゃっていましたがどういうガラスが好きだったんですか?」
久保さん「高校生の時の誕生日プレゼントも近くにあったギャラリーのワイングラスをリクエストしていました。あとはガラスの塊とか。
ガラスらしきものは何でも好きだったんです。かたつむりの卵とかも透明なんですけど、そういうのも好きだったし。
光を包み込むような半透明のものにいつも魅かれていました」