くらしをつくる人NOTE

Vol.12
2020.12.15
陶芸家 釋永岳さん

根拠のない自信

こうやって東岩瀬に辿り着いた釋永さん。
少しずつ自分の手でご自宅やアトリエに手を加えながら、ご自身のものづくりに向き合っていきます。

金子「最初に制作した作品は何でしたか?」

釋永さん「いざ独立してみると自分が何もできないことに気がつくんですよ。
根拠の無い自信だけはあったんですけどね(笑)
本当に何も無くて、売れっ子作家の真似ばっかりしていました」

金子「今ある釋永さんの代表作、例えばÁGEやGENはどういう経緯で生まれたのですか?」

釋永さん「人の真似ばかりしていたけど、それではやっぱり売れなくて。
どうせ売れないなら、売れなくてもいいから、自分が作りたいものを作ろうと思うようになって彫刻に着手したんです。
その中で出来たÁGEやGENの質感が面白いなと思うようになって」

金子「彫刻を作る中で生まれた表現だったのですね」

釋永さん「自宅用に試しに作ったGENのうつわがお客様の目に留まって、
販売するつもりはなかったのですがどうしてもと言われるのでお譲りしたんです。

彫刻の作品と陶芸は分けて考えていたのですけど、お客様とのやりとりをきっかけに
そういう拘りは無くてもいいのかなと思うようになった頃、富山での展覧会の開催が決まりました」

谷口さんとの出逢い

桝田さんとの出逢いと同じくらい、釋永さんにとって重要な出逢いとなったのは、
富山、いえ日本を代表するシェフ谷口英司さんとの出逢いでした。

釋永さん「その展覧会にL'évo (レヴォ)ができる前の谷口さんが来てくれて、
“全部うつわを釋永さんのものにしたい、好きなものを作ってください”とおっしゃったんです」

金子「それは凄いですね」

釋永さん「本当に、好きなように作らせてもらったのが初期のL'évoのうつわでした。

料理人の方が使ったうつわの宣伝効果がすごくって。
谷口さんが雑誌で紹介されると料理人の方が谷口さんの料理を食べに富山までいらっしゃるんですよ。
そこで僕のうつわをご覧になって、帰りにギャラリーに寄ってくれて買って帰るんです。

今度は東京のレストランでそのうつわが使われて、SNSなどでまた情報が広がっていくという流れができました。
僕のうつわは料理人の方々に宣伝して頂いているんですよ」

金子「そのポジションが独特だなあと思うんですよね。一般的には家庭用のうつわを作る中で料理人の方からオーダーも来るという流れの方が多いですよね」

釋永さん「僕はそれを狙っていきましたね。
独立当初から、どういう人と一緒に仕事をしたいか妻と話をしていた時に
“自分は料理人と繋がりを持ちたい、プロと一緒に仕事をしたい”
と言っていたんです。気が付くと今は友達の殆どが料理人なんですよね(笑)」

金子「料理人の方とご一緒したいと思ったのは何故なのでしょう?」

「元々食いしん坊ということもあるんですけど自分の生活を豊かにしたいと思ったら、周りに居て欲しいのは魚屋さん、肉屋さん、酒屋さん、そして料理人の方々かなあと」

金子「桝田さんや谷口さんのような地域のトップランナーの方々と関係性があるからこそ
釋永さんのうつわの良さが引き出されているのかなと思うのですが地域との繋がりというのを意識されたりしますか?」

釋永さん「今の富山は作り手の勢いがあるし、連携も素晴らしいんです。
料理人が他の料理人と市場を繋いだりもしているし。
一方僕たちみたいな工芸作家にもきちんと目を向けてくれている。

そして富山には、美味しいお魚も、お肉も、野菜も、お酒も全て揃っているんですよ。
例えば僕たちはさっきあがったお魚を食べることができるんです。

そういうところが自分たちの強みだってみんな気づいていて、それを繋いでくれているのがシェフ達なんですよね。

そこに遊び仲間として加えて頂けてすごく幸せです。
仕事にもなるし、遊びにもなる。
呑んでいる時間もすごい情報量の学ぶことが沢山あるんです」

3/5
L'evo土