くらしをつくる人NOTE

Vol.10
2017.10.27
陶芸家 境道一さん

俺は焼き物屋

高校卒業後に、備前焼の学校に1年間通うことになる境さん。

その後、師匠の備前焼作家正宗悟氏に師事し、2年間修業をした後に長野に戻ります。
すぐに自分で薪の窯を制作し、作陶を開始しました。

金子「独立した当初から薪の窯を使われているのですよね」

境さん「それしかやったことがなかったんですよ」

金子「薪窯の火はとても魅力的で、わくわくしますね」

境さん「しますよね(笑)。窯焚きが終わった後に“ああ、俺は焼き物屋だ!”っていう達成感があります。どうにもできないことってあるじゃないですか、天候とか、薪の入れ方とか。そういうのも含めて薪の窯は魅力的だなと思います」

こういったお話を伺う横で、窯からは火が出ていてあたりもじんわりと温かくなっています。

窯焚き中は、もっとバタバタとしているのかと思っていたのですが日中は火加減を見る程度で、
ゆっくりと時間が流れていました。

一期一会

左側の片口と猪口は織部。
右側の猪口と徳利は焼き締め。

窯のそばで温まりながら、地元のおいしいお酒をいただく至福の時間。

織部のうつわは、かっこ良くて優しいんですよね。
お酒の時間を穏やかにしてくれる、そんなうつわだなあと思います。
しっとりとお酒を含んだ焼き締めのうつわは、何とも艶やかでお酒をよりおいしく感じさせてくれます。

境さんの作品と言えば、一点一点の個体差が魅力。

同じ釉薬でもこんなに違うの? と思うほど個性的な表情を持つうつわたち。
一生懸命選んで連れ帰ったうつわは、より愛着が湧きます。

金子「以前松本で拝見した時、織部と栗灰釉がとても印象的でした。いつ頃から作られるようになったのですか?」

境さん「織部は最近ですね。独立した時は焼き締めと灰釉から始めました」

金子「特に織部は焼き上がりの良い意味でのバラつきがあると思います。織部の産地である美濃焼ではあまり見ない表現だと思いますが」

境さん「自分が不器用なんだと思うんですよね。向いてないのかもしれないですね(笑)。
織部って繊細な釉薬ですが、自分は適当なのでいつも出たとこ勝負です。

でも、たまに自分でもびっくりするような素晴らしいものができあがることがあって、やめられなくなっちゃうんですよね(笑)。

毎回それを狙ってはいるんですけど、違うものが出てくるのが面白くて。
たぶんもっと研究すれば、電気やガスの窯でもこういった表現はできるようになるとは思うんです。

でも、自分の中では薪ならではの雰囲気を大切にしたくて。

時代とは逆行してますよね。安定もしないし、毎回出てくるものが違うし」

金子「こういうものが出てくるという予想ができない作品だからこそ、魅力を感じている方も多いと思います。
画一的なものに囲まれている私たちがいま、心から求めているのは自然の力が生み出した偶然の産物なのかもしれません」

境さん「使う人も作る人もみんな違うし、それで良いと思うんですよね。
それぞれが自分らしくあれば。

作る人が自分らしく作る。
使う人が自分が使いたいものを選ぶ。

そんなことを言っている自分自身がブレブレなんですけどね。釉薬ものもやりたいし、焼き締めもやりたい。
やりたいことが多くて一本に絞れないんです(笑)」

境さんの作品は一つひとつ個性があってとても魅力的。
それと同じように選ぶ私たちも個性があって、趣味や嗜好も違う。

それぞれが偶然出会う、一期一会の感動の瞬間を境さんのうつわが演出してくださっているようにも思えます。

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初窯祝い