くらしをつくる人NOTE

Vol.5
2016.12.9
木漆工とけし 渡慶次 弘幸さん、愛さん

日々のくらしにも

漆のお椀に入っているのはソーキのお汁。
お昼の時間にお邪魔したので、愛さんの手料理をごちそうになりました。

日常の中で漆を使うということはとても贅沢な気がしますが、元々漆は木のうつわをより強く、より使いやすくするために塗られているもの。

毎日使うことが一番のお手入れとは愛さんのお言葉です。

沖縄の日々のくらしに合った、ものづくりを意識しているという木漆工とけしの作品は、
沖縄料理や沖縄のやちむん(沖縄の焼き物のこと)などとの相性が抜群です。


沖縄の陶芸家、大嶺実清さんのうつわに盛り付けた
ターンムディンガク(田芋の田楽)を
とけしのへら匙で取り分けます


おにぎりと卵焼きとビラガラマチ(青ねぎの酢味噌あえ)。
漆器に盛り付けると料理もよく映えます


沖縄の陶芸家、大嶺実清さんのうつわに盛り付けた
ターンムディンガク(田芋の田楽)をとけしのへら匙で取り分けます


おにぎりと卵焼きとビラガラマチ(青ねぎの酢味噌あえ)。
漆器に盛り付けると料理もよく映えます


自然と共に生み出す

木漆工とけしの作品は様々な沖縄の木から生まれています。

 

沖縄に戻ってすぐは、輪島で使っていた木を取り寄せて仕事をしていたそうですが、
ある時期から身近な沖縄の木に注目するようになったそうです。

金子「沖縄の木を使うことが多いと思いますが、ものを作るのに向いているのでしょうか?」

弘幸さん「正直なところ、沖縄の木はムラが多いし、硬すぎたり軽すぎたりと木材業界でいう良い木はほとんどないですね」

                          

金子「では、なぜあえて沖縄の木を使うのですか?」

弘幸さん「扱いにくいというのは、人の勝手な都合だなと思うようになったのです。沖縄に沢山の木があるのに、他のところから持ってくるのはちょっと違うなあと。せっかくなら沖縄の木を生かしたいと思うようになって」

弘幸さん「近所の人が新しい木をよく持ってきてくれるんです。“こういう木があるよって”。
今まで使ったことのない木は、最初はだいたい上手く扱うことができません」

愛さん「どんな味がするのかな~って味見する感じだよね(笑)」

弘幸さん「そうそう、だいたい最初はまずい(笑)」

金子「笑」

弘幸さん「僕たちはまずは素材と向き合い、作る過程の中で形も塗りもどのように仕上げるのかを決めていきます。例えばイタジイという木にいつも行く材木屋さんで出会って、なんとなく惹かれて少しだけ買い求めたんです。
試しに8寸のお皿を作ったんですが、仕上がったその木地がすごく狂って日に日に動くので、
この材は使えないなあと思い目につくところに置いて放置していました。
しばらくして木が落ち着いたので、試しに漆を塗ってみようということになって。 イタジイは硬くてしっかりしていて木目もとってもきれいなので、それを生かすような塗り方にしました。

できあがったものは悪くはなかったんですが、僕たちの印象としては地味すぎるなあと感じて
商品としてはボツにして、自宅で使うことにしました。 
すると日々のくらしの中で、その皿に自然と手が伸びていたことに気がついたんです。
パッと目を引くわけではなくとても素朴だけど、実際に使ってみると素材感が伝わってきて良いうつわだなあって。じわりじわりと思うようになりました。

これをきっかけにイタジイを沢山仕入れて、同じ塗りでいろいろと作品を作るようになったんです」

金子「例えばどういったものを作るようになったのでしょうか?」

弘幸さん「その頃の僕たちは、自分たちのくらしに合うお椀ってどんなものかというのをつかめずにいて、無理に作らなくていいかなあと思いながら数年が経っていた時期だったんです。
でもイタジイにシンプルに漆を塗ったこの仕上げなら沖縄のくらしにも合う雰囲気のお椀ができるかなと思って作ることにしたんです。これがきっかけで、本格的にお椀作りに取り組むことができるようになったんですよ。
今はイタジイを使って作るのはお休みしていて、代わりにクスノキというイタジイと雰囲気の似た木に同じ仕上げをしたお椀を制作しています」

雨晴と渡慶次ご夫妻との初めての出会いは、昨年の9月のことでした。

自然に近いところでものづくりをしながら暮らしを愉しんでいる様子を拝見して、とてもうらやましく感じたことを覚えています。

このくらしをつくる人というコラムを連載するひとつのきっかけは、お二人の自然との向き合い方に感銘を受けたから。

自然をそのまま受け止めて、会話をしながら順応し、生かす方法を見いだす。
その姿勢は私たちのくらしにとって、とても大切なことを教えてくれている気がしています。

3/5
ハレの日にも