くらしをつくる人NOTE

Vol.5
2016.12.9
木漆工とけし 渡慶次 弘幸さん、愛さん

木地師 渡慶次 弘幸

「トン、トン、トン」
「トン、トン、トン」

制作中の重箱の底を叩く音が心地よく工房に響いています。

これは、鉋(かんな)で木地を削る際に、底が水平になっているのかを確認するために軽く木地を叩く音。

自らの手で削って平らにした木製の作業台の上で木地を鉋で削る、
音を聞くという作業を繰り返しながら、作業台の平らを木地に写すように仕上げていきます。
そうすることでカタツキのない平らな木地ができあがります。

弘幸さんが修業した桐本木工所では漆の木地を専門に作っていました。
そこで得た経験や技術が弘幸さんを漆の世界へと導いたようです。

弘幸さん「ちょうど、桐本木工所が木地だけではなく自社の製品まで作るようになっていった頃に修業を始めたんです。それもあって、最初は木地の仕事はほとんどできなくて2年目まで拭き漆の仕事をずっとやっていました」

愛さん「ふてくされていたんだよね(笑)」

弘幸さん「そう、“僕は木工の仕事をしに来たんだ! 拭き漆をしに来たんじゃない!!” って(笑)」

愛さん「でも、今になったら拭き漆の時代にやっていたことは役に立っているよね」

弘幸さん「桐本木工所で学んだのは漆を塗るための木工だったので、それまで習得してきたものとは違っていました。木を接着するのに漆を使うとか、桐本木工所でしか教えてもらえなかったことが数多くありました。その経験がなかったら、今二人で仕事もできていなかったと思います」

底を叩く音と交互に聞こえてくるのが

「スーッ」、「スーッ」、「スーッ」

という鉋で木を削る心地のよい音。

手だけではなく、体全体を使って削るその美しい所作に見入ってしまいました。

弘幸さん「修業中、何千枚という木地を鉋で削っていました。
だからなのか、この作業をしていると修業時代を思い出して懐かしい気持ちになります。
漆で接着する作業は一日の最後の仕事になることが多かったんですけど、職人が総出でやるんですよ。
親方が“これをやったら今日の仕事終わりだぞ”って。そうすることで仕事が早く終わることを親方がわかっていたんですよね」


塗師 渡慶次 愛

修業時代に師匠である下地職人の福田敏雄さんから学んだことが、愛さんの仕事に強い影響を与えているようです。

愛さん「福田さんは、ただ完璧を目指すのではなく、そのうつわの目的に合わせて必要な手をかけるという職人さんです。これは私の塗りの仕事に対する姿勢にも繋がっています」

金子「具体的にはどういう点ですか?」

愛さん「無駄に手をかけすぎずに、自分にとって、ものにとって必要なものが何かを考えて塗るようにしています。それは使う人にとって必要なものに仕上がることに繋がっていると思います」

特別に生漆(きうるし)を漉す作業を見せていただきました。

愛さん「生漆は乳白色ですが、空気に触れるとすぐに酸化して黒っぽくなっていきます。
これに熱を加え拡散することで、生成され透明になっていきます」

弘幸さん「福田さんは漆にかぶれやすい方で、徹底的に手につかないようにしています。その人の下で習ったから、愛ちゃんは漆の仕事が丁寧だといわれているんですよ」

愛さん「私も、実は漆にかぶれやすいんです(笑)」

金子「とけしさんの作品はお二人で一から考えて作るのですか?」

愛さん「なんとなくの話を先にすることもありますが、形は弘幸さんが考えて好きに作っています。
私は仕上がってきた木地を見て、どう塗るかを考えるのが楽しいんです」

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日々のくらしにも