くらしをつくる人NOTE
2021.2.18
ベネチアからの伝道師
津坂さんの作品を初めて拝見したのは10年くらい前のことでしょうか。
モダンなレース模様が入ったコップを見せていただき、とても魅かれたことを覚えています。
今回あらためてレースについて津坂さんに伺うとその奥深さやレースに対する津坂さんの愛情を知ることができました。
金子「津坂さんといえばレースというイメージが強いのですが
レース制作に取り組み始めたのはいつ頃だったのでしょうか?」
津坂さん「もう、学生の時からですね。富山ガラス造形研究所は日本全国、時には海外からその道のプロの先生が教えに来てくれるような学校だったんです。
僕が入学する一年前にベネチアの巨匠と呼ばれる方がやってきて
その影響で学校中にベネチアングラスのブームが巻き起こっていて」
金子「それはすごい環境ですね」
津坂さん「僕もそのブームに乗っかってベネチアングラスの中でも一番難しいレースガラスに夢中になって取り組んでいたんです」
金子「レースにピンと来たんですか?」
津坂さん「みんなが難しい、難しいっていうから、なんとかして身につけてやろうという意地があって」
久保さん「みんなレースに憧れていたんですよ。
学生みんなが挑戦するんですけど本当に難しいからどんどん脱落していくんです。残った人たちが頑張ってやっていたという感じでした」
イタリアの宝物
習得するまでに10年はかかるというレースガラス。
同級生がその制作を諦める中、津坂さんは生まれ持った感性と負けず嫌いが相まって
めきめきと技術を見につけていったそうです。
金子「日本でレースを作れる方って少ないのですか?」
津坂さん「今は増えてきましたね。
当時は本当に少なくて第一人者と言われている方は僕の学校の先生です。その先生くらいしか制作している人がいなかったんです。
携わる人が少なかったというよりは、その技術自体がまだ日本に伝わってきていなかったんですよね」
久保さん「レースは門外不出の技術。その制作の地ムラーノ島からは職人も出てはいけないというくらい厳重に管理されていました。ベネチアのレースガラスはイタリアの宝物だったので」
津坂さん「遡ると、江戸時代にオランダかどこかの国からレースの技術が伝わって江戸硝子で制作されていたという記録があるんです。
明治以降は機械化されていって日本ではその歴史が一度途切れてしまったんですがここ数十年の間に再びガラスアートとして作られるようになりました。
僕の先生から僕が学び。今度は僕が先生になって教えてという流れができて少しずつ作る人が増えてきたんです」
金子「そうやって今、レースの技術が日本に広がってきているのですね」
ほっと、一服
雨晴の展覧会では「くらしをつくる」時間としてワークショップなどお客様参加型のイベントを開催してきました。
日の出ガラス工芸社さんの展覧会の時に久保さんが点ててくださったお茶がとーっても美味しかったのですがその時に使われていたのが津坂さんのレースの抹茶碗。
今回お邪魔した時にも久保さんが美味しいお抹茶を点ててくださって、ほっと一服。
津坂さんは、学校を卒業した後シアトルに渡り現地のガラス作品作りの空気に触れます。
そこで学んだのは単に仕事としてではなく
くらしの中のひとつの愉しみとしてガラスづくりに向き合う姿勢。
「ああ、ものづくりをもっと楽しんでいいんだと学べたことがとてもよかった」と
津坂さんがおっしゃっていたのがとても印象的でした。
津坂さん、久保さんがご自身のくらしを愉しんでいらっしゃるからこそ
手元に届いた作品が私達のくらしを心地よいものにしてくれるのでしょうね。
何かひょうきんなものを
津坂さんの作品の中で個人的に一番好きなのがこちらの「福鳥(ふくどり)」。
毎年、春の訪れと共にこの愛らしい鳥たちが雨晴にやってくるのを楽しみにしています。
津坂さんの作品はレースなどの高度なガラス工芸の技術を用いながら
時にはかっこいいグラスなどの正統派の作品を。
時には愛らしい動物モチーフの作品を制作されています。
金子「津坂さんの中でお気に入りのレースの作品はどういうものですか?」
津坂さん「いま、気に入っているのは抹茶碗とか鳥に使われているこの着物みたいな模様です」
久保さん「あとはこの透明のレースのもの。これは津坂にしかできない技術だと思います」
金子「すごく綺麗です!」
津坂さん「レースは難しいし、時間がかかるので模様をはっきり見せたくなるんですよね。
せっかく頑張ったのにぼやけているともったいないというか。
ベネチアでもそうですし、最初は僕も白くはっきりと模様を見せることを意識していました。
でも日本人には "ぼやかして綺麗なもの" を感じるセンスがあると先生に言われて何年か前から取り組んでいるのがこの作品です」
久保さん「これは7色のレースで制作しているので虹みたいになっているんです」
金子「これはどうやって、こうなっているのかわからないですけど、とにかく綺麗です!」
津坂さん「僕は古道具が好きなんですけど。
5個並べても全部揃っていないみたいな、可愛らしい1個を手に入れるような感覚で自分が欲しいと思うものを作っています。
世の中の流行とかは意識しないようにしていて他の作家さんの作品も見ないようにしています」
金子「そうなのですね」
津坂さん「技術を習得することにしか学生時代に打ち込んでこなかったので、真面目に作るとただのベネチアングラスとかそういうものになってしまうので、ちょっとひょうきんなものを意識して作ったりしているんです。
もちろん、正統派のベネチアングラスも作るのですが世界でだれもやっていないような最高の技術を使っておどけた鳥をつくるとか。そういう表現が自分も楽しいなと思っています」